水泳の授業は子どもたちの夏の楽しみのナンバーワンです。
昨今、学校の多忙化や働き方改革にコストカットなども影響で、子どもたちの水泳の時間は少なくなりつつあります。
夏休み中の水泳も実施しない学校がほとんどでしょう。暑い日は夏休み明けも続きますが、夏休み前で水泳の授業は終了です。
短い水泳の期間でさらに時間も少なくなり、泳力の平均的な力は、昔に比べ下がっていると思います。泳げなくても平気で、プールに入ることも嫌がる子どももあらわれています。
でも、泳げるようになると水とのふれあいの世界が始まります。水泳ができるようになるかどうかは小学校での授業が大きな役割を果たしてきました。とはいえ、ちょっと昔の水泳指導は結構スパルタ的で、無理やり泳がせていたことがよかったのかどうかは疑問です。
水泳に力を入れようと考えている先生方や、子どもに泳げるようになってほしいと願う親御さんたちに、子どもたちが泳げるようになるためにどんなことを大事にしていけばいいのかまとめてみました。
学校でやってほしい泳ぐ以前につけてほしいスキルや参考になる資料について紹介します。
小学校の水泳指導は昔とはちがう
私が教師をし始めた30年ほど前は、もう昔の時代ですが、今の時代の水泳指導とは内容もやり方もそれほど大きく変化していません。
ただし、安全面を重視する世の中とともに、水泳指導も様々な改善をしてきました。
たとえば、逆飛込みや潜水は危険を伴うので指導しなくなり、目を守る意味からゴーグルの着用が当たり前になりましたね。
指導の傾向としては、レベル的には優しくなったと言えます。
以前は、水泳の時期は毎日のように水泳を授業で行い、速く泳げることが重視されていました。小学校対抗の水泳大会が毎年行われ、地域のスポーツ少年団にも水泳のクラブが必ずありました。
水の事故を防ぐ意味でも、泳げることが教育の課題でもあったのです。泳げない子はほとんどいなくて、泳ぎは競い合うものとして存在していたように思います。
水泳が夏の時期のスポーツの代表でもありました。
ですから、授業でもクラブの練習のように泳ぐことが水泳の時間でした。
健康増進や水泳の人気とともに、スイミングスクールも非常に盛んになり、水泳を小学生のお稽古ごとにしている児童はとても多かったです。
このころには、スイミングスクールに行っている子どもは泳ぎがどんどん上手になり、小学校に入学する前からすでに泳げる子どもたちがたくさんいました。
ところが、プールでの事故が多く報道されるようになったり、プールの管理がより重要視されたりして、水泳も泳ぎのレベルを上げることよりも、安全を第一に考えるようになってきました。
そのころから、無理なことはさせないように、指導内容もきちんと泳げなくてもそれをその子なりに評価する傾向になりました。
また、その子の頑張っている過程を大事にとらえていくことや相手と比べるよりもその子自身の達成度を評価していく、個人内評価を大事にするように変わってきたことも水泳のレベルを易しくしてきた要因と考えられます。
- 今の水泳の授業は安全面重視
- 飛び込みは禁止、長く潜る潜水も危険
- 水泳の達成度は頑張っていることが重視されるようになった
- 6年生になっても25mを泳ぎ切ることができない子が増えた
- 競い合う水泳大会もほとんどなくなった
水泳は本来、泳げることが目標ですが、安全重視で無理なくということばかりが先行してしまったことは間違いないでしょう。
また、スイミングスクールは習い事のランキングではトップですが、それは都会のような市街地の傾向で、少子化の影響で子どもの減少とともにスイミングスクールに通う子供も少なくなり、さらに、水泳よりも他のスポーツなどに志向が変わってきました。
学校水泳もレベルが易しくなり、泳力もそれほど高くない子どもたちが多くなりました。
小学校の水泳の目標はやさしい⁉
現在の小学校での水泳の授業は、3年生からは泳法として、クロールにつながるバタ足などが学習内容にありますが、1・2年生は水慣れが中心の水に親しむ内容です。
遊んだり、浮いたりもぐったりですが、泳ぐことを目標にしていません。
先生方の中には、上の学年に向けて、泳ぐことを教えています。水で遊ぶよりも泳ぐことが優先しています。たぶん、そのくらい練習しないと学校の授業だけで泳げるようにはなりません。
水泳も幼少のころから練習することで水に慣れ、泳ぐことを無理なく覚えていきます。子どもの頃の学びは本当に大きな影響を与えます。
水泳大会でよい成績をとるとか、何秒以内に泳ぐとかいう上位の目標が、水泳の結果を見せる大会や場面がなくなったことで、水泳は泳げればいいという目標にレベルダウンしました。
小学校の水泳指導も無理やり泳がせるよりも、その子の意欲や目標を重視して、その子なりに水泳に親しんで入れば十分に評価するという形になってきています。
水泳の時間だけで泳げるようにはならない
小学校の水泳の時間は、現在では、週3回が妥当です。それ以上体育の時間を実施すると、体育の時間数が超過したり、他教科の指導時間が足りなくなったりするので、毎日実施することはないでしょう。
週3回の水泳のシーズンはおよそ7週間でしょうか。計算すると…21回前後でしょうね。
この20回程度でも毎回同じことの繰り返しではなく、高学年であれば、クロールをしたり、平泳ぎをしたりと、内容が変わります。さらに、泳ぎのテストをしたり、お楽しみ的な時間を取ったりします。
また、プールの使用は2クラス以上が同じ時間に水泳をしますので、使えるコースも3コース程度となれば、授業時間に練習できる個人の泳ぐ回数も数回です。
泳ぎが苦手であれば、さらに泳ぐ時間は少なくなり、あっという間に授業時間は終わります。
教師一人で30人以上の指導をするのですから、すべてに子どもには手が回りません。
泳げるようになった子どもは、自主的に練習させることが多く、苦手な子どもに先生が個別に指導するパターンがほとんどでしょう。
水泳の指導は個別指導が欠かせません。子ども一人一人の泳ぎの課題が違うからです。ある程度までは共通の課題で何とか目標を達成していきます。
しかし、その子なりの得手不得手があるので、どうしても違いが出てきます。同じように泳げるようになるには、基本的な泳ぎができないと上達しません。しかし、その基本練習は本当に時間がかかるのです。
疲れることもあるし、低学年であれば集中力もなくなるでしょう。
着替える時間と片付けや準備運動などの時間も当然含まれていますので、ゆっくり練習するなんてことはまずできませんね。
泳ぎの練習の時間は、45分の授業の中で20分程度なのです。
そんな状況を解消するために、以前はなかなかできなかった自分の泳ぎを動画にとって振り返ることや教育テレビの水泳のコンテンツを活用して、泳ぎのコツを理解させたりしています。
水泳は練習を繰り返しているうちに泳げるようになるものですから、根気よく練習に励む気持ちも大事ですね。
このように、学校での水泳ではみんなが同じように上達していくことはなかなか難しいのです。
練習時間の確保が十分にできないことは確かです。うちに帰って練習します、なんてことが水泳はできないものですからね。
結論から言うとスイミングスクールが確実
学校水泳とスイミングスクールでの水泳は、取り組ませ方が違います。スイミングスクールは、何よりも技術を向上させることに目標があるのですから、そのために人的確保や環境の整備が万全に整っています。
さらに、泳ぎのレベルが達成できないまま次の泳ぎには進めないので、自分の課題を達成するために集中することができます。
学校水泳は、水泳の得意な子にとってはあまり壁はないのですが、苦手な子はみんなと比べらられて劣等感を抱いたり、意欲を無くしたりする可能性は大いにありますね。
学校は集団行動が基本ですから、個人練習はみんなの動きに合わせてやらなければならないので、やりたいことがどうしても制限されがちですね。
私の経験ですが、教師になる前にスイミングスクールでコーチをしていましたが、小さな子どもたち8名程度のグループをほぼマンツーマンで指導していました。時々、テストが行われるので、子どもたちの目標もはっきりしていて、意欲的に練習していましたね。
スイミングスクールの指導法はその当時は、浮けるようになったら、背泳ぎからマスターしていきましたね。
背泳ぎは息継ぎの動きがないので無理なくできるのです。
この背泳ぎができる前に、あおむけで浮く「背浮き」というものができることが関門ですが、力を抜いておなかを上に張るようにすると姿勢よく浮けるのです。
今のスイミングスクールがどんな指導法をしているのかはここでは取り上げませんが、少なくとも、水泳を無理なくマスターするためには、スイミングスクールはいつでも、どんな季節でも水泳ができるのですから、間違いなく泳げるようになります。
この場を活用しない理由はないと思いますね。
学校水泳で泳げるようにするために
低学年の水慣れ
保育園や幼稚園では小さなプールで水遊びをしていますが、安全上いつでも立って歩ける深さのプールです。
このプールでは泳ぐことよりも水に慣れるためには何も不都合はありませんが、泳ぐということは水の中を移動することよりも浮いていることができる動きですから、浮いていないといけない必要感が生まれにくいです。
すぐに立てるプールでは泳ぐ必要はありません。歩けないから泳ぐのです。
学校では低学年のうちは泳げないので安全上水深は浅いです。いろいろな水慣れをしながら、泳ぐための基本的なことを遊びながら習得していきます。一人ではなく、みんなで一緒にやることで水に対する恐怖心も緩和されますね。
この低学年の時期にどんな水慣れをしておくかというと、
- 水の中では体がふわふわ浮いてしまう
- 水の中では体を支えずにいろいろな動きができる
この2つのことが頭でわかるだけでなくて、できることが必要です。そのためには少し深い水深(肩ぐらいまでの深さ)のほうが体得しやすいのです。
浮くことよりも潜ること
浮くことができない人は大体泳ぐことができません。そんな人はたいてい水の中に体を沈めることも抵抗があってなかなかできません。
低学年の時期には、体を水の中にすっぽり沈めることや頭から水にもぐったり、水の中に飛び込むことも体験してほしいです。
水慣れ 浮くこと・潜ることの指導 こちらの資料を参考にしてみてください
この参考資料には、全体的な水慣れの内容ですが、特に潜ることや体を全部水中に沈める動きが大事です。水の中では体が軽くなり、浮くのですその軽くなる状態で陸上ではできない「宙に浮く」感じを体得するのです。
水の中では体が軽くなる感覚がありますが、体の力を抜いているとよりいっそう感じ取れます。飛び込んでも水の上にいったん浮き上がります。ずっと沈み続けることなどありません。
水に沈むということから、浮くことが自然とわかるようになります。水に体を任せるということです。
浮くことよりも潜ることを多くしてみると、水の中でどんなことができるかが自然とわかってきます。そうすると、立てなくても動けることができるようになります。
こうしたことがわかってくると水への恐怖心はなくなります。
低学年の時期には無理に泳がせることよりも、水の中で動くことをたくさんやらせることが大事ではないかと思いますね。
泳ぐ前にできてほしいこと
その1 浮くこと
泳げるようになるには浮き続けることです。
腕や手を動かしても足を動かしてもいいので、浮き続けることを体験させることです。
その浮く姿勢の中で、あおむけに浮く「背浮き」ができるようなることはとても大きな進歩になります。
これは初めのうちは介添えがないと、怖くて体がくの字に曲がって沈んでしまいます。
- 息を止めながら、または静かに呼吸をしながらお腹を上のほうに突き出す感じで浮きます。
- 顎を突き出すのではなく、軽く引く感じで足のほうを見るようにします。
- 首の後ろに指導者が手を添えて、軽く引っ張るようにして水面を滑らすように浮かせます。
- くの字に曲がる子には、体の下から背中を軽く上に押すようにして、お腹を突き出すようにするさせます。
つぎに、うつぶせでのいわゆる「けのび」の姿勢で浮かせる方法です。
これは、泳ぎにつながる大事な浮き方なのですが、次のように指導します。
- はじめは、手を前に伸ばし脚も伸ばして大の字で浮きます。
- この時に、浮いたと思ったら、すぐに立つことを練習します
- 前に伸ばした手をその伸ばした状態のまま、手を太もものほうに水を押しながら立ちます。
- 浮いた時に伸ばした足は、ひざを曲げて腕のほうに縮こまるようにします。
こうすることで水平なっていた体が垂直に戻り、立てます。
水平に浮いていても、どうすれば、顔を上げて水の中で垂直に戻せるかを体の動きでできるようになることが大事なのです。
ですから、低学年うちに水の中でどんな動きをしたり、手足を動かしたりすると、体はどんなふうになるのか。そんな水慣れがとても重要なのです。
このことをたくさん経験しておくことで泳ぎを支えるスキルが出来上がります。
その2 息をはく
水中で息を止めることは誰でもできますが、水中で息を吐くことができていないことが水慣れがなかなかできない要因です。
息は止めている間はじめは苦しくありませんが、そのうち苦しくなってきますが、息を吐いている間は苦しみは感じません。
息は吸うことと吐くことをくりかえしていることで苦しく感じることはないのです。もちろん、運動が激しくなるとそれだけ酸素を必要とするので、息は荒くなるのは当然です。
ところが、吐くことをこらえると苦しくなります。
息継ぎでは水中で息を吐いて、水中から出たら息を吸う。というこの繰り返しです。
水中でブクブクと息を吐くことが当たり前になると、息を止めているタイミングもおのずとわかってくるのです。
水中で鼻からも口からも息を吐く練習をさせましょう。
水中に沈んだら、ブクブクと息を吐き続け、パアッで水中から顔をあげ、息を吸う。
「ブクブク パアッ」 の連続です。これが泳ぎの息継ぎです。
その3 ジャンピング(呼吸と体の動き)
水中から飛び上がるようにジャンプして、そのあと着地するような感じで、水中に沈みます。そして、ひざが曲がり、また、飛び上がります。しっかり体を水中に沈めるくらいでないと、大きくジャンプできません。
また、ジャンプの時は、両手で水を押し下げるように全身を使って、水中からジャンプします。
以下は、とある有名なスイミングスクールで実践しておられる指導者のコメントです。
水中ジャンプは「高くジャンプする」ことが大切で、そのためには ①ゆっくりとしっかり鼻で息を吐きながら水の底でできるだけ小さくなってしゃがみ、②ジャンプする時に手の平で 水を押し、③水底をしっかり蹴ることが必要です。 ①の「しっかり息を吐く」ことで、肺の空気が減って浮力が小さくなり沈みやすくなります。一気に吐かず、ゆっくり長く吐くこと。「ブクブクブクブク・・・・・・パッ!」または「ンンンンン・・・・パッ!」です。長く吐き、水面に出たときにパッで勢いよく口から吸います。「パ~~」では吸えません。「パッッ!」です。吐くことで吸うことができるのです。
ジャンピングを通して息継ぎと水中での体の動かし方は以下の動画をご覧ください。
この一連の動きが水中での体の使い方の基本動作です。
泳法指導 クロール
小学校の水泳では、クロールは一番できてほしい泳法ですが、正しいフォームで泳ぐことができない子がたくさんいます。
学校でもちょっとコツを教えるだけでかっこよく楽にクロールができるコツを教えます。
クロールの基本は、腕のかきです。
もちろん、足のキック(バタ足)が基本ですが、
クロールは腕のかきを如何に推進力にしていくかが大事です。
それで、がむしゃらに腕を回す子供が多いのですが、腕は回すというよりも、伸ばすという感覚が必要です。
そして、伸ばした腕から耳を離さないようにすることが重要です。
苦手のこのクロールは頭が左右に動いたり、前を見ようとしたり、頭が上がることが多いです。
息継ぎは、耳を伸ばした腕につけるようにして、後ろを見るようにして息を吸います。
顎を引く感じです。顎を突き出して息を吸うと、頭が上がり、腰が沈んで、体の水平が崩れます。
こんな感じです。
前述した、「ブクブク、パアッ」がここで生かされるので、口は水面からすっかり出ていなくても吐き出す息の勢いで一瞬のうちに吐き出し吸うので、水を飲むなんてことはありません。
子どもに見せるおすすめの動画がこれ⇒はりきり体育ノ介(NHKforschoolより)
この番組には水泳の基本的な泳ぎのコツやNGな例が取り上げられているので、苦手の子にはとても分かりやすい内容になっています。
素晴らしい泳ぎをいくら見せても効果はあまりありません。本人たちと違いすぎるからです。しかし、この番組は先生たちも多く授業に取り入れています。
是非一度、ご覧ください。
まとめ 短い水泳の期間中に目標を持たせよう
小学校の水泳の時間は子どもたちの夏の大きな楽しみです。
暑い日に水泳や水遊びをすることはとても気持ちいいですね。苦しいような水泳の練習よりも水遊びに夢中になりたいなんてこともあります。泳げない子どもほど水遊びが大好きです。
水泳指導で子どもへの配慮はあって当然ですが、何となく泳がせているだけでは、一向に泳げるようにはなりませんから、きちんと目標を持たせ、自分の目指す泳ぎに近づけるように目標を持たせましょう。
例えば、低学年の水慣れの中で浮くことの目標でも
- 頭まですっかり水に沈むことできる
- 頭からもぐることができる
- うつ伏せで浮ける 仰向けで浮ける
- 達磨のように縮こまった形で浮ける
最低これだけはできることが望ましいです。これができないと泳ぎにつなげることが難しくなります。これらは、水慣れの中でできるようになっておいてほしいことです。
水泳が苦手になる一つは幼少の頃の経験が大きく影響します。低学年では遊びといっても泳ぎにつなげるための遊びです。そんな水慣れを大事にしながら、もぐること、浮くことなどを十分に経験させ、水の中で自由に簡単に動けることの面白さを教えていってほしいと思います。
水慣れメニュー中学年・高学年にもおすすめ!と泳げる子どもにする指導についてのお話でした。最後までお読みいただきありがとうございました。
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